らもすいずむのフットボールログ。

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続・書評~モウリーニョ×レアルマドリー「3年戦争」~

 

モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言

モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言

 

以下がアマゾンの内容紹介。

 

“負ける準備をしておけ” 

勝利至上主義者が発した衝撃のメッセージの真意とは?

スペイン全土で議論沸騰の問題作! 

選手やフロントとの内紛、他クラブ関係者との衝突……。数多くの騒動によって大きな注目を集めたモウリーニョレアル・マドリー監督時代(2010~2013年)の「裏事情」を、スペイン高級紙『エル・パイス』の敏腕記者ディエゴ・トーレスが当事者たちへの綿密な取材で解き明かした問題作。 

既存のモウリーニョ本とはまったく違う、名将の“もう一つの顔”を知ることができる本作は、2013年9月にスペインで出版されたばかりで、翻訳は海外サッカー誌『footballista』編集長の木村浩嗣が担当。

 

世界最高の監督とクラブは、なぜ対立したのか?

海外サッカー好きなら必読の一冊だ。

 

 

 

  この本では、彼の真実の姿の姿が赤裸裸に語られている。多くの証言が秘匿にされており、特定の選手が情報提供したのかなどは載っていない。彼はメディアを通して、自身のイメージをまるで『正義の成功者』のように作り上げた。それは彼の獲得したタイトル、キャリアが物語っている。彼は選手としての実績がないことも由来している。正にシンデレラストーリーである。では、内容に入って行きたいと思う。

(書評~モウリーニョ×レアルマドリー「3年戦争」~よりの引用)

 

この著書は今年、3月に書評としてレビューした、モウリーニョ×レアルマドリー「三年戦争」というエントリーに補完されるエントリーである。

 

 

【フロレンティーノ・ペレスという男】

 私はこの本を4度目を通した。そこまでの回数を掛けた理由は、「レアルマドリー」というクラブが外面的に発信するイメージと、この本に描かれていることが自分にはとても信じれなかったからである。

 

 当初私は、この本がマドリディスモを有する者によって書かれていると思っていた、だからこそジョルジ・メンデスやジョゼ・モウリーニョのことを糾弾する意思を持っていたと考えていた。しかし、実際は違っていた。原作版(スペイン語版)の著者であるディエゴ・トーレスは日本語役者である木村浩嗣氏(footballistaの創設者であり編集長である)の独占インタビューで本に書けなかったことを赤裸々に語っている。今日はそのインタビューの中で自分が衝撃を受けた部分を紹介しようと思う。もちろん、この記事を読む前に自分(この記事を投稿する4か月余り前)の書評にも目を通して頂けたら嬉しい限りである。

PC版:書評〜モウリーニョ×レアルマドリー「三年戦争」〜 | らもすいずむ | スポーツナビ+

携帯版:書評〜モウリーニョ×レアルマドリー「三年戦争」〜 | らもすいずむ | スポーツナビ+

 

木村浩嗣、以下木村)この本ではモウリーニョを監督としてだけ取り扱っているわけではなく、ビジネス論やリーダー論、シャーマンや宗教などにも言及していますよね。

ディエゴ・トーレス、以下DT)「レアル・マドリーがサッカーのことをあまり信じていない人間たちによって率いられていることを説明したかった。彼らは異端者であり、ある意味、斬新なやり方でクラブを運営している。彼らの決まり文句は『サッカークラブは今まで元選手の“フットボレーロ”(=教養のないサッカー人)で運営されてきた』だった。フロレンティーノ・ペレス会長はその状態にNOと言った。そして『今からはそれらサッカー人のことは忘れ、企業を率いる伝統的なやり方で運営したい』と言った。モウリーニョとの契約はそうしたアイディアから出てきたものだ。モウリーニョは元選手のサッカー人ではなく、サイエンティストであり人材管理者でありエンジニアだった。サッカービジネスはサッカー人に任せるには重要過ぎる、と考えたのだ。フロレンティーノは一般的な監督は嫌いだが、モウリーニョは好きだった。彼のことを単なる監督ではなく、技術官僚だと見ていた。ちょうどフロレンティーノが本業の建設会社ACSで相手にしているエンジニアのように。しかもモウリーニョのやり方は彼好みの権威的なやり方だった。一方、モウリーニョもサッカーのことを話すのにしばしば『サッカー産業』という言い方をした。彼にとっても単なるスポーツとか娯楽以上のものだった」

(下線部強調はらもすいずむです)

 

 ここでペレスのクラブに関する考え方が表されているのである、レアルマドリーは世界有数のフットボールクラブで有る故、選手たちもさまざまな環境下で成育し、移籍してきた。しかし、その中であるのはサッカーというスポーツに深く根を降ろした者によって運営されてきたことが問題であった。彼はビジネスライクであると同時に自分に対して、信仰心のある選手を厚遇したのであった。

 

 

【被害者となったエジルカシージャス

 信仰心の熱い選手とは誰なのか?それは自分が獲得し自分の考えに順々に従う選手であった。それとは対照的に自分への忠誠心が薄い選手がチームから出され、移籍金目当てで他クラブへと行くことになった。その代表例がドイツ代表メズート・エジルである。このことは先の書評にも自分は述べているが、彼はエレガントな選手であった。一方で、彼は昨年夏に電撃移籍という形でレアルマドリーを去り、ロンドンに移った。そのことも述べられている。

 

(木村)本の最後の章には、モウリーニョが去っても「物語は続く」という意味のことも書かれていますね。

(DT)「放出要員のほとんどはフロレンティーノ会長自身がクビを切った。モウリーニョは一人で暴走したのではない。後ろにはモウリーニョに多大な権限を与えたフロレンティーノが常にいた。2人の意見は、権力に従わない選手は切る、で一致していた。モウリーニョは去ったが、フロレンティーノはこのアイディアを捨てていない。だからエジルらは放出され、カシージャスは控えのままだ。本当はモウリーニョに選手の入れ替えをやらせたかったが、自らの手を汚すことになってしまった」

 

 選手の放出するしないの判断は決して現場主導のモウリーニョの意見が重視されていた訳ではなかったのである。ペレスとモウリーニョは結託していた、彼らの意見で選手の放出は行われた。昨夏ではギャレス・ベイルトッテナムから高額な移籍金で加入し、同じレフティであるエジルが弾き出され、ガナーズアーセナルの愛称)へ放出された。

 

 またエジル以外にも自身の弊害となる選手の放出を行った。カカー、イグアインラウール・アルビオルという選手たちもマドリードを離れた。自分に従わない選手は切るというのが、彼のメソッドでありこれが実現化された瞬間であった。これはモウリーニョの有無は関係ない、彼が去った後の出来事であるのだから。

 

 

【フロレンティーノの“声”】

 ペレスの“声”は現場まで反映される。それは3年間監督を務めたジョゼ・モウリーニョチェルシーへ去り、PSG(パリサンジェルマン)から招聘したカルロ・アンチェロッティ体制になってからも変化はなかった。

 

(DT)「例えばカシージャスが今でも第2GKなのはフロレンティーノの意向だということだ。彼はずっとカシージャスが気に入らなかった。南アフリカW杯でトロフィーを掲げようが何をしようが」

(木村)どうしてですか?

(DT)「人間の心理とは複雑なものだ。部下でも友人でもなく、フロレンティーノ自身が契約を結んだ選手でもないそりが合わず、親近感もないカシージャスの方が自分よりもカリスマがあり人を惹きつける。嫉妬も見栄もある。フロレンティーノの願いはRマドリーで最も重要な人物になることだから、他の人間の影に隠れるのは耐えられないのだ」

 

 ラウール亡き後のレアルマドリーでは、イケル・カシージャスがチームの象徴になった。クラブの貴重なカンテラからの生え抜きで有り、スペイン代表の正GKのポジションまで獲得した彼を、ペレスの鶴の一声でベンチに置いたと証言している。つまりペレスにとって、カシージャスは目障りな存在であるのである。覚えている方は少ないだろうが、モウリーニョはリーグ戦において、いきなりカシージャスをベンチに置きアダンを起用した。しかしスターティングメンバーに抜擢されたアダンは安定したパフォーマンスを魅せることは出来なかった。しかし、風はペレスの追い風に拭いているのだろうか?試合中のアルべロアとの接触プレーによって骨折をしてしまい戦線離脱を余儀なくされてしまう。トップチームのGKが2人になってしまったことで、モウリーニョカシージャスと定位置争いを行える能力のGKの獲得を打診した。そこで加入したのが、ディエゴ・ロペスであった。彼は高い身長と定評の有る足元の技術で自身に対する信頼を築いた。ここからカシージャスの地獄のような日々が始まる。モウリーニョ体制下では出場試合数は限られ、アンチェロッティ体制でもカップ戦のみの出場に留まった。

 

 

【来季の守護神は?】

 しかし、ここでペレスの頭を悩ます事象が起きてしまう。カシージャスゴールマウスを守った国王杯とCLではマドリーは優勝に輝いた。CL決勝のマドリードダービーとW杯のパフォーマンスが低かったにしろ、“ラ・デシマ”の功労者である彼を放出すればチームましてや最高権力者である彼への批判は避けられないであろう。敵への被害は最大に、自分への被害は最少に留めたい彼にとっては、今夏の最重要事項であろう。

 

 コスタリカ代表のケイラー・ナヴァスがへ獲得の噂が流れているが、これは放出を許容するという民意を作るためのプロバガンダであると自分は思っている。

 

(木村)モウリーニョのRマドリー時代、メディア一般は彼やフロレンティーノ・ペレス会長の代弁者となっていたのでしょうか?

(DT)「そういうことも多かった。モウリーニョとフロレンティーノは彼らの公式見解を流し続けるために、主要な新聞、テレビ、ラジオと密接な関係を築いていた。それはRマドリーの力に対するジャーナリストたちの無力さを表していた。しかし、『マルカ』や他のメディアの中にも社の編集方針に従わず自分の意見を述べ続ける、独立したジャーナリストたちがいたことも確かだ。『マルカ』は伝統的にRマドリー寄りではあるが、その中でも批判を続ける者がいたという多様性は評価すべきだ。ただその一方で今でも“フロレンティーノ寄り”と呼ばれる、クラブが流してほしい情報を代弁するテレビ番組が少なくとも3つある。それらの番組の視聴率は高くないが、少なくともRマドリーファン内での世論を左右する力を持っている

 

 選手の放出を予め、メディアに伝え、流し、浸透させておくことで、反発を最小限に抑えることができる。それはペレスの権力保持に繋がるマストポイントであるからである、彼はクラブではなく保身の為には努力を惜しまないタイプの人間であるとペレス会長の知られざる一面をこのインタビューから垣間見た気がする。

 

 だからこそ、今季の放出は難しい。ペレスからしたら、昨シーズンのオフで膿は出し切ったはずだからである。獲得が決まったトニ・クロースハメス・ロドリゲスといったような選手たちはCLを獲得したチームに対して更なる強化とマンネリ化防止の為であっただろうからである。このような政治的な内圧によってチーム作りを行うチームは勝ち続けることができるのだろうか。

 

 しかし、これからもペレスは自身の権力安定とビジネスライクなサッカー産業、そして銀河系軍団としてのアイデンティティを貫くだろう。彼のトカゲの尻尾切りとなったモウリーニョはロンドンで、もう1つのマドリーから選手を引き抜き“傭兵軍団”として育てるだろう。今季はレアルマドリー×モウリーニョという構図は見られるのだろうか。今季も楽しみなシーズンになるだろう。

 

 

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《参考文献》

『三年戦争』著者インタビュー:前編 | footballista.jp

『三年戦争』著者インタビュー:中編 | footballista.jp

『三年戦争』著者インタビュー:後編 | footballista.jp